今になって思えば、僕は「自分が使う身の回りのモノ」について、人一倍こだわる子どもだった。
例えば、文房具。
小学生が喜んでよく買うようなキャラクターものは絶対に嫌で。
ステッドラーの鉛筆とかMONOの消しゴムなど、大人が好んで使うようなものを中心に、使い心地や見た目を十分にチェックしてから買う。そんなメンドくさい子ども。
矛盾を抱えながら生きる
で、『なんで他の子はあんまり気にしないんだろう、こんな気にする自分が変なのかな?』と当時は思ってたけど、この本を読んで何となく腑に落ちた。
人間は「あなたは大切で、生きている価値がある」というメッセージを、つねに探し求めている生き物だと思う。
そして、それが足りなくなると、どんどん元気がなくなり、時には精神のバランスを崩してしまう。
「こんなものでいい」と思いながらつくられたものは、それを手にする人の存在を否定する。
とくに幼児期に、こうした棘に囲まれて育つことは、人の成長にどんなダメージを与えるだろう。
「自分は大切で、生きている価値がある」と思いつつも、一方では「こんなものでいいや」と妥協してしまう矛盾。
子どもの頃の僕は「『こんなものでいい』と思いながらつくられたもの」を使いたくなかったんだ。
そして「自分は大切で、生きている価値がある」ということを探し続けてたんだな、と。
続いて、著者は「仕事」についてこのように綴っている。
大人でも同じだ。
人々が自分の仕事をとおして、自分たち自身を傷つけ、目に見えないボディーブローを効かせ合うような悪循環が、長く重ねられている気がしない。
「こんなものでいい」と思いながら、会社での仕事を無難にこなす。
その一方で、やれ会社が悪い、上司が悪いと周囲に愚痴をこぼす。
こんな毎日では身体と心のバランスを崩して当たり前だ(恥ずかしながら、まさに自分がそうでした)
しかし、結果としての仕事に働き方の内実が含まれるのなら、「働き方」が変わることから、世界が変わる可能性もあるのではないか。
仕事とは何か。
「いい仕事」はどこから生まれるのか。
仕事を「自分の仕事」にするためには何が必要なのか。
それを見つけるために、筆者の西村佳哲さんは、クリエイターを中心とした魅力的なモノづくりの現場を訪ね歩く。
柳宗理さんの話
個人的に特に興味深かったのが、工業デザイナー 柳宗理さんのお話。
食器やカトラリーなどの身近なモノから、動物園の歩道橋や高速道路の料金所といった大型建築まで、様々なデザインを手がけている柳宗理さん、
「最後まで図面は引かない」と語る。
こういうもの作ったらいいなあって思うことはあるけど、でも、やってるうちに出てきちゃうんだよ。
(中略)
イメージは最初からあるんじゃなくて、徐々に変化して固まっていくんだね。
その前はごちゃごちゃ。どんなものが出てくるんだかわからないよ。
あぁ、きっと柳さんは「自分が欲しいもの」や「かっこいいと思うもの」が、まず考えの根底にあって、そのうえで形を練りあげていく仕事のスタイルなんだろうなぁ、と。
最初からキレイに作ろうなんてこと、誰も思っていないんですよ。
紙なんかをこう曲げて、こうこうこういう感じにしようとか。
椅子でも食器でも橋梁でも、原型みたいなものを作りながら、こういうのはどうだろうって。
紙だとかなんだとか、どこにでもあるような素材で、どんどん作ってみます。
逆に言えば「自分が欲しいと思わないもの」や「かっこいいと思わないもの」は絶対に作らない。
仕事を「自分の仕事」にするためには
僕が会社勤めの経験で嫌だったことは、
「自分が欲しいと思わない」
「かっこいいと思わないもの(サービス)」
を、クライアントに提案・提供しなければならなかったこと。
本当は、もっと他にいいソリューションがあるのに、会社どうしの結び付きが強いから懇意にしている先を紹介したり、とか。
今になって考えると「だったら本当にオススメしたい方をプッシュすれば良かったじゃん」と思う。
だけど、当時はそれが出来なかった。
それは何故なのか。
結局のところ、仕事を自分ごととして捉えきれていなかったんだ。
働き方を訪ねてまわっているうちに、その過程で出会った働き手たちが、例外なくある一点で共通していることに気づいた。
彼らはどんな仕事でも、必ず「自分の仕事」にしていた。
仕事とその人の関係性が、世の中の多くのワーカー、特にサラリーマンのそれと異なるのだ。
本当にそれが必要なのか?
本当にそれがベストの選択と言えるのか?
今思えば、そういった自問自答を徹底的に重ねることなく、どこかで「こんなものでいい」と割りきってしまっていたんだと思う。
どんな請負の仕事でも、それを自分自身の仕事として行い、決して他人事にすることがない。
企業の中で、まるで自分事ではないような口ぶりでグチを漏らしながら働いている人々(むろん例外も多い)の姿を見てきた当時の自分にとって、彼らの在り方はとても新鮮だった。
これを「理想論だ」とか、「土台サラリーマンには無理な話」と決めつけてしまうのは簡単だ。
でも、本当にそうだろうか?
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